日本でも多くの本が翻訳されている、有名な心理学者、スタンレー・コレン氏による犬についての謎を解く本です。
心理学者として、また動物行動学者として50年近く研究している著者ならではの視線で、読むと気づかされることが多いです。
しかし愛犬たちは、秘密を秘密のままにしておきたいらしく直接質問には答えてくれない。
この本で紹介している犬の秘密は具体的に71個。
それをスタンレー・コレン氏が犬に代わって教えてくれる。そんな本です。
『犬と人の生物学: 夢・うつ病・音楽・超能力』の本の詳細
日本でも有名な心理学者、スタンレー・コレン氏による、犬の不思議な行動や誰もが知りたい71の疑問に答える本。
(※本のリンクにはAmazonアソシエイトが適用されています。)
ページ数は、274ページ。
ペット関連の本はだいたい200~300ページなので普通のボリュームかと思います。
定価は、2,200円です。
本のカバーにはこう書いてあります。
- 犬は嫉妬したり羨望したりするか?
- 犬もうつ病になるか?
- 去勢した犬がマウンティングするのはなぜ?
- 犬がお腹を見せて眠るのはどんなとき?
- 犬はテレビを見ているものを理解しているのか?
- 犬は夢をみるか?
犬好きの人や犬の飼い主だったら感じる、何気ない犬に関する疑問をひとつひとつ丁寧に解説しています。
動物行動学者らしく、過去の実験結果などを紹介しつつ、オカルトではなく科学的根拠に基づいて述べられています。
もうひとつ、この本で便利だなと思ったところは、索引ができることです。
たとえば、嗅覚のこと知りたいと思ったら、本の末尾で索引すると【嗅覚 29~30,31~32,126,226,227】と簡単に書いてあるページを見つけることができます。
私が感じた、この本の感想
読みやすさ | |
---|---|
オススメ度 |
読んでみて、この本を一言で簡単に表現すると、
この本を読んでも、病気を治したりできるわけではないですが、心理学者らしく、人と比較して犬のことを書かれています。
例えば、「犬が尻尾を振るのはどういう意味か?」という問いには、
笑顔というのは社会的な信号で、人間には他にその笑顔を見せる人がいる状況のときでなければまず笑わない。
犬が尻尾を振るのも、それと同じ特性があるようだ。
と、誰もがなるほどと納得するような説明をしています。
この本では、もっと詳しく犬の尻尾の特性や、動かし方や振れ幅での意味などは4種類に分類し解説しています。
トリビア的な、犬の小ネタも多く散りばめられていて、何度も読み返すことができる本だと思います。
犬とオオカミの違い
オオカミと犬の違いはなんでしょう?
「犬の先祖がオオカミ」または、「犬は調教され家畜化されたオオカミ」だと答える人は多いと思います。
オオカミはかつて、灼熱の砂漠地帯から極寒の北極圏まで、人間を除いて地球上で最も広範囲に分布する哺乳類だったそうです。
そんなオオカミがなぜ、地域によっては絶滅したり、大幅に数を減らしているのでしょうか?
理由の大部分は、人と共存できずに人間に滅ぼされたからと結論付けられています。
この本では、もうひとつの理由としてこう書かれています。
オオカミの発情期は年に一度だけで、メスは二歳か三歳になる前に子供を産むことはめったになく、一度に産む子供の数は平均4~6頭。
子供の死亡率は通常50%ほどなので、オオカミの群れでは年に2~3頭しか増えず、これは一年間に死亡する群れのメンバーを埋め合わせるのに必要な増加率をわずかに上回るに過ぎない。
このようなオオカミの習性も関係しているようです。
性格的な、犬とオオカミの違いはなんでしょうか?
オオカミは人に懐かないけど、犬は懐くし訓練をすれば人間の命令にも従う。
また、犬との違いといえば、オオカミの群れでは排尿するときに足を上げるのは順位が1位の個体(アルファ)だけ。
(アルファがメスの場合も足を上げる。)
他のオオカミは、メス犬のようにしゃがんで排尿するそうです。
化学的見地から犬とオオカミのDNAを比較すると平均99%が一致していて、犬種が違う犬同士のDNAが古くからいる一部の犬種とオオカミのDNAの違いより大きい。
また、同種であるかどうかを判断する一番簡単な方法は、交配できるかどうかだが、犬とオオカミは互いに交配が可能で、意図的に交配して販売する業者も存在するほど。
犬とオオカミの違いの結論として、筆者はこう述べられています。
犬の先祖はどんな動物なのか?
最初に人間に飼われるようになり、その結果、犬になった最初のイヌ科動物は、どうやらハイイロオオカミだったようである。
だたし、遺伝学的なデータによれば、もっとも単純かつ保守的な結論は、犬には現存する野生のイヌ科動物のさまざまな種の遺伝子が混じり合っているばかりか、いくつかの絶滅した種のものも混じっているらしい。
このことが、なぜ飼い犬には、ベキニーズとグレート・テンほどの異なる犬種ができるのかの、遺伝的多様性を説明するのに大いに役に立つであろう。
犬も”うつ病”になるのか?
この本では、興味深い犬の実験結果が随所に書かれています。
そのひとつが、『犬も”うつ病”になるのか?』の実験結果を踏まえた話です。
その犬は、急速に体重が減り、普段より寝る時間が多くなり、起きている時間は神経をとがらせ、ピリピリし、何に対しても興味を示さなくなった。
人間だったら『うつ病』との診断がでるが、当時は犬に感情はないとみられていた。
それに異を唱えた同僚が、その犬に『抗うつ剤』を飲ませてみたら、その犬の症状は劇的に改善された。
その歴史に残る結果によって、今ではほとんどの獣医師が、動物にも感情があり、人間と同じような精神的な問題が起こり得ると理解し、現在は、動物行動薬理学という分野が発達し、獣医師のほとんどが向精神薬の使い方を学んでいるそうです。
余談ですが、日本でも自傷などの行動をとる恐れがある犬には、抗うつ剤を処方するようですね。
ミックス犬の性格は生まれつき決まっているのか?
性格は、遺伝(生まれ持ったたもの)と環境(与えられたもの)に分類されます。
犬の場合は、性格の大部分は、受け継いだ遺伝子によって決まるといわれています。
特に、純血種は親の性格を受け継ぐ傾向がつよくなります。
では、ミックス犬(ハーフ犬:F1世代)の場合は、どうでしょう?
興味深い調査結果がこの本に載っています。
2つの犬種は性格が真逆です。
ニューファンドランドは穏やかな性格で飼い主に絶対服従するタイプで、ボーダー・コリーは活発で自分から仕事を見つけて熱心に動くタイプ。
2頭がいる部屋に入ったとすると、ニューファンドランドは鼻でつつき、あなたの注意と愛情をおねだりするたいぷ、ボーダー・コリーはチラッとみて入ったことをみとめると今まで任務に戻るタイプ。
そんな2頭を交配させたらどうなると思いますか?
概ね、ボーダー・コリーの父親よりも愛情深くおっとりしているが、ニューファンドランドの母親よりも緊張度が高く興奮しやすかった。
これは、最近流行りのミックス犬にも言えることですね。
そして、この研究結果には続きがあって、その次の世代(F2)になると、遺伝子の再結合によって予測がつかない性格になるそうです。
なので、犬を繁殖し販売するブリーダーも、純血種同士のかけ合わせ以降の、ミックス犬同士や純血種とミックス犬などの配合は、性格も身体的特徴も予測できないのでやらないそうです。
これは、雑種強勢という植物でも動物でも一緒の現象ですね。
雑種強勢
両親の交配により、どちらよりも優良形質な雑種を生み出すことである。品種改良で優れた種同士を掛け合わせ、より優良な「新種」を産生する事象とは異なる。
雌馬と雄ロバの子であるラバや、カイコの養蚕や、ニワトリの養鶏にも利用され、雑種強勢を利用したハイブリッド品種やF1作物と呼称される農作物が多種産生されている。種苗会社が繁殖用品種の親株とする二種を別々に自植または同種の他殖で栽培を継続し、毎期その間に産生される雑種を一代限りの栽培品種として販売するものがF1作物で、これを購入後に栽培し収穫する農家が、栽培品種から雑種第二代(F2)の種子を得ても、優良形質はほとんど得られない。
wikipedia
著者は、人間の心理学者であり動物行動学者
著者であるスタンレー・コレン氏のプロフィールは、
1942年、米ペンシルベニア州フィラデルフィア生まれ。ペンシルベニア大学卒業、スタンフォード大学で博士号取得。現在、カナダ、ブリティッシュ・コロンビア大学心理学部の教授。研究分野は、人間の感覚過程(視覚や聴覚)、神経心理学(利き手、睡眠、出生ストレス効果や行動遺伝学)、認知(情報処理知能)など幅広い。
また、犬の愛好家であり、犬の行動に関する研究も行なうかたわら、愛犬と一緒にカナダの数々の訓練競技会に参加し、多くの賞を得ている。
(本に掲載されているデータです。)
カナダ全土で10年以上放映された、”good dog”という出演番組もあるそうで、ある意味外国(カナダ)では有名人みたいです。
本来は、認知心理学の著書でもあるスタンレー・コレン氏ですが、犬に関する著作も10数冊あり、日本でも何冊も翻訳されています。
wikiによると、著書の本は日本を含め26の言語に翻訳されているそうです。
有名なところだと、
『犬があなたをこう変える』は、出版したばかりのころに読んだことがあります。
犬に関するエピソードが面白おかしく書かれています。
特に、「ネアンデルタール人がなぜ絶滅したのか?」についての答えがwikiにものっていない新説で興味深かったです。
ネアンデルタール人は絶滅してクロマニヨン人が生き残った原因のひとつに犬が関係しているそうです。
今回紹介している本『犬と人の生物学』とも関係が深く内容もとても濃い本ですので興味がある方はどうぞ。
筆者の本はどれも評価が高いので、機会があれば違う本も読んでみたいと思います。
『犬と人の生物学』の目次
この本の疑問は71あります。
すべてに筆者が回答しています。
71の目次を紹介いたします。
PART1 犬は世界をどんなふうに認識しているか?
犬には色彩が見えるか?
犬の視力はどれくらい?
犬の目はなぜ暗闇で光るのか?
犬はテレビで見ているものを理解しているのか?
犬の聴覚はどうやって調べるか?
人間と比べて犬の聴覚はどれくらい?
犬の嗅覚はどれくらい鋭いか?
犬の種類によって嗅覚に差はあるか?
犬はガンを発見できる?犬の味覚はどれくらい優れているか?
犬にはなぜひげがあるのか?
犬は人間と同じように痛みを感じるか?
犬は鏡に映った自分がわかるか?
PART2 犬は本当に、考えたり感じたりするのか?
犬には人間と同じ感情があるか?
犬の性格は遺伝的に決まるのか?
心配性で怖がりな犬がいるのはなぜか?
犬が攻撃的になっているという印は?
特に攻撃的な犬種は?
犬は嫉妬や羨望を感じるか?
犬は本当にうつ病になるか?
犬は笑うことができるのか?
犬は計算できるか?
犬には音楽がわかるか?犬に超能力はあるか?
犬は夢を見るか?
自分の犬をもっと利口にすることは可能か?
PART3 犬はどうやってコミュニケーションをとるのか?
犬は何が言いたくて吠えるのか?
犬はなぜ吠えるのか? やめさせることはできるのか?
尻尾をふるのはどういう意味?
犬の尻尾を切るのはなぜか?
犬はなぜ遠吠えするのか?
遠吠えと追い鳴きはどこが違うのか?
犬が遠吠えするのは、誰かの死が近い、という意味か?
犬は本当に、コミュニケーションのために尿を使うのか?
脚を上げておしっこするオス犬がいるのはなぜか?
犬はなぜ、股ぐらの匂いを嗅ぐのが好きなのか?
去勢した犬が、なぜ他の犬にマウンティングするのか?
犬はなぜ、ゴミや糞便など、臭いものの中で転げ回るのか?
なぜ犬は鼻に触るのか?
犬は、人間のボディ・ランゲージとコミュニケーションの信号を
どれくらい理解できるのか?
PART4 犬はどのように学ぶのか?
他の動物と比較して、犬はどのくらい賢いか?
犬種によって知能に優劣はあるか?
報酬訓練と罰訓練はどちらが効果的か?
クリッカートレーニングとは何か?
自発行動キャッチングとは何か?
ルアートレーニングとは何か?
身体的補助とは何か?
シェーピング(行動形成)とは何か?
犬の学習能力の限界は?
PART5 子犬と老犬は特別な存在か?
子犬はどうやって生まれてくるのか?
一緒に生まれた子犬なのに、全然似ていないことがあるのはなぜか?
子犬はなぜ、生まれたときに目と耳が閉じているのか?
なぜ子犬の目は初めは青いのか?
なぜ子犬たちはかたまって眠るのか?
抱き上げると体をだらんとさせる子犬がいるのはなぜか?
最初の数週間、母犬が子犬の糞尿を食べるのはなぜか?
あなたの犬は何歳か?
老犬はアルツハイマー病にかかるか?
PART6 私の犬が私に伝えたいその他のこと
犬は単なるおとなしいオオカミか?
犬とオオカミはどちらが多いのか?
世界には何頭の犬がいるのか?
なぜ世界にはこれほどたくさんの犬がいるのか?
ハウンド(猟犬)とはどんな犬?
一番重い犬・軽い犬・のっぽの犬・ちびな犬はどれ?
犬は世界最速の陸上動物か?
犬は汗をかくか?
なぜ犬は、仰向けに寝ることがあるのか?
犬にはなぜ狼爪があるのか?
犬が人間の傷口を舐めると、傷は早く治るか?
犬はなぜ骨が好きなのか?
犬を飼うとより健康になれるか?
犬の気持ちを分かっていないと、犬をしつけることは困難です。
本や動画をみて、見よう見まねで愛犬を訓練する場合でも、今現在の犬の気持ちが分かっていると訓練が容易になります。
すべての気持ちが分かるわけではありませんが、この本を読むことで、少なくとも犬が何を考えているのかを考えるキッカケにはなります。
バイブル本とまでは言えませんが、こういった観点からの本は珍しく、1度読むだけで理解するような本でもないので、ふとしたきっかけの時に家にあると便利な本だと思います。
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