「愛犬が他人を噛んで怪我をさせた」「愛犬が吠え続け近所から苦情が来た」などの思わぬトラブル、動物病院やペットサロンでの不安が拭えない事柄など、犬を飼っていると、いろいろなことが起こる場合もあります。
そんな時にはどうしたらよいのか?裁判での判決内容を含めて、トラブルを起こしてしまった時の改善策や解決方法を紹介します。
愛犬のトラブル11選
犬を飼ううえで、ご近所さんとの理解やトラブルを回避することは、愛犬と快適に生活する上で欠かせません。
動物愛護法や民法では、他人に迷惑をかけた場合は、それにともなう賠償責任(動物占有者の責任)を飼い主さんが負うことになっています。
ご近所からの苦情を避けるにはどうしたら良いのか?
また、起きてしまったトラブルにはどうやって対処したら良いのか?
よくおこりそうなトラブルの内容や解決方法を具体的にまとめてみました。
他人を噛んで怪我をさせた
じゃれるつもりでも、勢いあまって相手を噛んでしまう事故は意外に多いです。
公園でリードを離して遊んでいた犬が子供を噛んでしまったり、家に遊びに来た友人を噛んで怪我をさせたりと咬傷事故は、現在でも年間に3000件ほど起こっています。
裁判沙汰になった場合は、裁判費用から慰謝料まで飼い主さんがすべてかぶらなければいけません。
【札幌地判平27.1.28】 6,300万円
平成26年2月、北海道白老町の海岸を散歩中の主婦(当時59才)が放されていた2匹の土佐犬(いずれも3?4才の雄で、体重約50kg、体長1m超)に襲われ死亡した。
女性の顔や腹などに、かまれた傷が多数あった。
2匹の犬に突然襲われて海に追い込まれ、最終的に溺死したのだ。
飼主の無職、佐治清(当時65才)は、この凶暴な犬2匹を含め合計3匹の土佐犬を、飼犬の登録も狂犬病予防注射もさせず、自宅で違法に飼育していた。おまけに、犬を海岸に連れていくための軽自動車の車検は受けておらず、自賠責保険にも入っていなかった。(事件後、2匹は保健所で殺処分された)
男は重過失致死罪で懲役2年6か月(求刑懲役4年、罰金20万円)、罰金20万円の実刑(札幌地判平26.7.31)、服役中に遺族(夫と3人の子)から損害賠償を請求され、慰謝料など求刑通り6,300万円の支払いを命じる民事判決が出された。
裁判官は「土佐犬は大型で、人に危害を加えることが予想されるのに、安易な考えで綱を手放した過失は重大」と指摘した。
男は自分の犬が女性を襲ったことを知らないことにして犬を連れ帰宅したが、目撃情報から犯行がばれた。
【名古屋地判平14.9.11】 799万円
平成11年12月、市内の路上を散歩中の男性(当時49才)に、突然背後から飼い犬が襲い掛かり、ふくらはぎを咬みつかれた。男性は、左膝内障傷害と診断され、更に、咬まれた直後に当該犬が狂犬病の予防注射をしていなかったことを知り、狂犬病発症におびえてPTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症した。男性はロンドン大学の博士号をもつ高学歴で、コンピュータ技師として月額130万円の収入を得ていたが、強度のパニック症状により情緒不安定となり、就業できない状態になった。
この犬は、飼主の敷地内で放し飼いにされていたが、外に出ないように立てかけていたトタン板がなぜか外れて、犬が通り抜ける隙間ができていたため、犬が自由に路上に出ることができる状態だった。
飼主は夫婦とその長男の3人、3人ともこの犬の占有者として訴えられたが、飼主は妻一人であり、夫と長男は占有者でもなく責任もないと主張した。
裁判官は3人を共同占有者と認定、登録名義人は長男だが、犬の占有・管理は家族全員であり、3人とも責任を負うとした。
男性はこの事故で被った損害は2,758万円になると、この金額を請求したが、裁判官は、男性の慰謝料、逸失利益などの損害賠償合計を799万円と計算し、夫婦と長男共同でこの金額を支払うことになった。(飼主は10万円の見舞金を先に支払っているので、判決の金額は789万円)
【大阪地判昭61.10.31】 230万円
大阪府池田市で男性が大型犬(秋田犬、体重35kg)を鎖につないで散歩させていた時、近づいて来た顔見知りの女性(28才)が犬に手を出したので、飼主は「怖くないですよ」と答え、自らその女性に犬を連れて近づいたところ、急に犬が女性に飛び掛り顔に咬みつき、鼻尖部挫滅創の大怪我を負わせた。
鼻を咬まれた女性は本件事故後2年にわたって入院5回(合計入院日数48日)、通院22回の入院・通院を余儀なくされ、総額1055万円(内130万円は内金として入金済)の損害賠償を請求した。
被害者に本件事故を誘発せしめたと認められる行為はなく、飼主の主張する過失相殺は適用されなかった。
裁判所は、飼主としての注意義務違反による、飼主責任を認め、治療費・通院中慰謝料・後遺症慰謝料・弁護士費用などをあわせ、230万円の損害賠償を命じた。(但し、内130万円は支払済)なお、女性の傷害は幸にも計4回にわたる形成手術によりかなり好転し、特殊化粧品を使って日常生活上は通常人とほぼ遜色のない程度に回復しているものの、素顔においては、その痕跡を残し、今後の形成手術によっても、これ以上の改善は期待できないと判断された。
対処方法は、各自治体の条例で定められています。
まずは怪我した被害者の方の手当てと、病院への同行、24時間以内に保健所に事故の届け出を。
また、48時間以内に噛んでしまった愛犬の獣医師による狂犬病検査も義務付けされています。
飼い主さんは、怪我が治るまでの治療費や検査費用を全額負担しなければいけません。
起きてしまったのトラブルのの解決方法は、お金を含めて相手が納得する誠意を示して、責任を果たすしかありません。
なお、愛犬が他人を怪我させた場合は、火災保険や自動車保険、一部クレジットカードなどの特約『個人賠償責任保険』に加入していれば適用されます。
場合によっては、迷惑料やお詫び金まで支払われることもあります。
また、ほとんどのペット保険には、他人を噛んで怪我をされた場合に備え『ペット賠償責任特約』が付けられます。
愛犬が吠えて驚いた相手が怪我をした
散歩中に、前から歩いてくる人に、吠えたり威嚇行動をとり、驚いて転倒して怪我をさせてしまった場面は容易に想像できます。
その被害を受けた人が、たとえ持病持ちだったとしても、裁判沙汰になった場合は、裁判費用や賠償金は飼い主さんが支払うことになる場合があります。
【 大阪地判平14.5.29】 870万円
54才の女性が体長60cmの犬を連れて公園を散歩していたところに、綱につながれていない犬(Labrador Retriever、体長90cm)が近づき、唸られたことから、女性は恐怖を感じ離れようとして、連れていた犬の手綱を引いたところ、バランスを崩して転倒、右太腿骨を折る大けがを負った。
骨折とその後の障害が残っているのは、公園で犬を放した飼主に原因があると、3,300万円の損害賠償請求した事案。
「犬の管理者が犬を公園・道路などに連出すには、他人に危害を加えないように綱をつけるべきで、原告の転倒の原因をつくった。しかし犬は、唸る以外のことはしておらず、転倒には原告(女性)の手綱の操作を誤った過失もあったが、飼主が散歩させる際の基本的注意義務を怠った過失は小さくない。」と判示し、飼主に約870万円の支払を命じた。
【大阪地判平15.2.17】 657万円
大阪市内の路上で、玄関先から飼主と一緒に出てきた犬(miniature Dachshund、体長約40cm)が走って近づいたのを怖がった女性(79才)が転倒して足を骨折、入院したが、入院先の病院で肺炎などのため死亡した。
女性の遺族が犬の飼主に対して、2,400万円の損害賠償請求した事案。
犬はリードにつながれていたが、伸縮性のあるリードでは、飼主は伸び縮みしないよう綱を固定すべき注意を怠ったと判定され、骨折と死亡との因果関係については、「骨折によるストレスで抵抗力が弱まり、肺炎になった可能性は否定できない」と認められた。
そのうえで、女性に喘息の既往症があったことを考慮し、657万円(損害額の3割)を支払うよう飼主に命じた。
【東京地判平19.8.9】 46万円
自動二輪を運転中の男性が、勝手口から道路に飛び出した鎖につながれた犬に驚き、犬との衝突を避けようとして道路脇のガードレールに衝突して負傷、バイクも損傷した。
犬の飼主は「鎖は短く、犬は道路まで出ていない」と主張したが、裁判官は、突然犬が道路に飛び出してきたため、運転手が驚いてバランスを崩したと、犬の飛び出し事実とバイク衝突事故の因果関係を認め、飼主に治療費、バイクの修理代など約46万円の支払いを命じた。
犬の飼主には、勝手口を閉めておくなどの配慮を欠いた過失があると認めたものだ。
散歩中はもちろんのこと、愛犬が他人に迷惑を及ぼすことは法律で禁止されています。
併せて愛犬への適切なしつけを飼い主さんに義務づけられています。
犬の散歩でよく見かける、伸縮性のあるリードは、長いままで散歩させていると固定すべき注意を怠ったと裁判所では判断されるようですので、注意しましょう。
吠えて他人を驚かせた拍子に怪我をさせてしまった時は、まずはお詫びをして、飼い主としての責任を果たしましょう。
怪我をしたときの治療費負担は当然ですが、その場で金銭的な約束までしてしまうと、トラブルがもっとこじれる原因となります。
これらの事案は、火災保険や自動車保険、一部クレジットカードなどの特約『個人賠償責任保険』に加入していれば適用されますし、ペットが他人などに損害を与えた時の『ペット賠償責任特約』などを加入していれば適応されます。なお、これらの保険は、少額の追加で付帯できます。
散歩中に愛犬が他の犬に噛まれた、噛んだ
散歩中は、他の犬との遭遇はよくあることです。
愛犬が噛んだり噛まれたりして犬が怪我をした場合は、両方の飼い主さんともに適切な対応が必要となります。
【春日井簡平11.12.27】 63,300円(過失相殺20%)
公園で、犬と散歩していたところ3匹の犬を連れた飼い主と遭遇し、そのうちの1匹にかまれて治療したが死亡した。
原告とその家族は、長年にわたり愛犬を朝夕散歩させ、ときには傍らで共に食事させるなど愛撫飼育してきたが、突然の事故を目の当たりにし治療の効なく死亡したのであるから、かなりの精神的打撃を受けたことは首肯できる。
しかし、本件は被告の過失の度合いが大きいとはいえ、犬同士の本能的行動によるものであること、その他、証拠によって認められる本件に関する一切の事情を考慮し、原告の受けるべき慰謝料額は3万円をもって相当とする。
そうすると、愛犬の時価8万円と慰謝料3万円、治療費123,500円の合計233,500円から過失相殺により20パーセントを差し引くと被告の賠償額は金186,800円となる。
原告の被った損害のうち治療費123,500円は、被告が全額を支払済みであることは当事者間に争いがないから、これを差し引くと原告が被告に請求し得る損害額の合計は63,300円となる。
【東京地裁昭44.3.1】 15,000円
控訴人の飼育所有する右「くま」が被控訴人方の庭内に侵入し被控訴人が当時同庭内玄関横に繋留して飼育所有していた雑種芝犬「まる」の咽喉部その他に吠みついて全治20日余の入院加療を要する重傷を負わせたというものです。
動物占有者の責任を認めた上で、「被控訴人は慰藉料として金3万円を請求する。《証拠略》によれば、被控訴人は犬のほか、鳩、インコ、亀等を飼育している動物愛好者で、本件まるも昭和三八、九年頃から飼育し、毎期散歩させたりして家族の一員のように愛育していたところ、右まるが咽喉部を咬まれ、無残にも咽喉から直接呼吸しているありさまを知り、相当重傷で、一時は死んでしまうかもしれないと思われたこと右まるの傷害が間接の原因となって被控訴人の妻ゆわが前記のとおり、ショックを受けて、その治療をうけるに至ったことなどからして、被控訴人が右まるの本件受傷によって相当の精神的苦痛を受けたことが認められる。
しかし、右まるの傷も全治して被控訴人の手許に戻ってきたのであり、その他諸般の事情を考慮すれば、被控訴人の苦痛を慰謝するには金15,000円が相当である。
犬同士のトラブルは、どちらの飼い主にも多少の責任があるとされ、賠償金は減額される場合が多いです。
残念なことに犬の場合、裁判をおこしても慰謝料は少額の場合がほとんどです。
なお、犬が犬を噛んだ場合は、自治体への届け出や狂犬病検査は必要ありません。
噛まれた場合は、万が一のことを考えて、相手の犬の予防接種の有無を確認し、念のために動物病院で診察してもらいましょう。
その場合の金銭的な負担は、加害者側(噛んだ側)に請求できます。
逆に、加害者側になった場合は、『ペット賠償責任特約』や『個人賠償責任保険』が適応できます。
保険が適応されたとしても、普段の散歩中だと相手もご近所さんですし、改めての正式な謝罪とお詫びの菓子折りくらいは必要かと思います。
愛犬の鳴き声がうるさいと苦情が来た
犬の鳴き声に関する苦情は、自治体や警察にも多くの寄せられていると統計でもでています。
騒音問題は、大きな問題に発展する場合もあります。
トラブルになる前に対策しておくことが重要です。
【東京地判平7.2.1】 276万円
東京都内で賃貸住宅を所有している親子3人が、近隣の居住する親子3人の飼っている犬の吠え声で精神的苦痛の損害をうけたのみならず、賃借人(米国人法律事務所経営者)も途中で契約解除して退去してしまったため、精神的苦痛と賃借人途中契約解除による得べかりし賃料分の損害を被ったとして、飼主親子を訴えた。
この飼主親子は大型犬Pyrenean Mountain dog(体重40-50kg)2匹、紀州犬1匹、それに柴犬1匹を飼っていたが、閑静な住宅地において、夜間、早朝を問わず大型犬が異常な吠え方をして、保健所、警察署に苦情を申し立てても事態が改善されなかった。
住人親子は犬の吠え声でノイローゼになったばかりか、賃借人も受忍限度を超える犬の吠え声で住めないと退去してしまった。
精神的苦痛に対する慰謝料及び賃貸契約(賃料月額160万円)中途解約による賃料損失補てんとして、裁判所は3人の飼主の不法行為責任を認め、総額276万円の支払いを命じた。
【浦和地判平7.6.30】 30万円
JR南浦和駅から300mほどの住宅地(近隣は商業地域)で、闘犬(American Pit Bull Terrier、中型犬)5頭を飼育していた男が、隣地の住宅に居住する女性(63才、認知症の夫も同居)に、吠え声の騒音被害を訴えられた裁判で、毎日朝夕1-2時間吠え続けるのは受忍限度を超える違法行為であるとして、精神的苦痛に対する慰謝料30万円の支払いを命じられた。
闘犬の飼主は、苦情を言われた腹いせに、隣地との境界21cmのところに、防音壁の名目で高さ5.4mの工作物を22mにわたって設置し、女性宅の日照・通風等を阻害したが、裁判所は、この工作物は挑発的・不適切なもので、加害目的が明らか、防音効果もなく、嫌がらせであると認定し、飼主に2mを超える部分の工作物の撤去を命じた。
【京都地判平3.1.24】 20万円
クリーニング店を経営する夫婦の隣で、German Shepherd犬(体重30-40kg)を飼育している女性が、犬の吠え声による騒音と糞などによる悪臭の被害を訴えられ、裁判所から、環境改善のために努力を怠ったとして、犬の飼育上の違法性が認定された。
騒音・悪臭により、クリーニング店の夫婦に対し、慰謝料として20万円を支払うよう命じられた。
夫婦は先に裁判所に仮処分の申請もしたので、飼主は、裁判が提起された時点では、すでに犬を他人に譲渡していた。
犬の吠え声の苦情はほとんどの場合が、近所付き合いの気薄が原因とされています。
よく吠える犬を飼う場合は、前もってお詫びをしておくとトラブルに発展することも少なくなります。
しかし、そのままにしておく訳にはいかないので、しつけをし直すか、場合によってはドッグトレーナーに預けることも有効です。
また、ちゃんとした防音設備を付けることは、ご近所に対策をしていると知らせる意味でも効果的だと思います。
病院に通っても一向に症状が改善しない
重い疾患で動物病院に通っている場合、一向に症状が改善しないと不安になってきます。
ひょっとして間違った診察をしているのではないかなど、一度芽生えた不安はずっと続くこともあります。
なかには、勧められてした手術で、もっと悪くなったケースや死んでしまったケースも。
その手術は果たして医療事故や過失ではないかと、裁判で争うトラブルまで発展することもあります。
【東京高判平19.9.27】 141万円
獣医師が、犬の蓄膿症治療のための卵巣子宮全摘出、口腔内腫瘍治療のための下顎骨切除、及び乳腺腫瘍切除の3つの手術を同時に行って、結果的に犬を死亡させたが、腫瘍は良性で不必要な手術であったばかりか、どのような手術をするかなど飼主にろくに説明もせずに不必要・不適切な手術を行ったと、裁判で獣医師の過失を認め、飼い主親子三人に対する慰謝料105万円も含めて、約141万円の損害賠償を命じた。
獣医師は、飼主が、医療行為の内容その他危険性等を充分に理解した上で意思決定ができるために必要な範囲の事柄を、事前に説明する義務がある。獣医師の不法行為に基づく損害賠償責任を認めた。
【東京高判平20.9.26】 63万円
免疫異常を原因とする脂肪織炎に罹患したminiature Dachshund犬(当時11才、4kg)が、犬猫病院の誤診により不適切な治療のせいで後遺障害が残り、飼主に精神的苦痛、経済的損害を与えたとして、飼主女性が431万円の損害賠償を請求した。飼主は犬のできものを心配して、近所の動物病院を何件か回ったが原因がわからず、獣医師十数名を抱える遠くの犬猫病院で診療を受けた。
しかし、獣医師は外傷性又は感染症によると判断して適切な投薬をしなかったため、3週間入院したが様態が悪化し、犬は生死の境を行き来するようになった。飼主の催促により、犬猫病院は日大病院を紹介し、そこで、免疫異常を原因とする脂肪織炎とわかり、適切な投薬によって一命を取り留めたものの、生涯後遺症が残った。(結果的に16才で死亡した)
裁判官は、犬猫病院獣医師の過失を認定し、飼主の慰謝料40万円を含む約63万円の損害賠償を命じた。
【名古屋高判平17.5.30】 42万円
かかりつけの獣医師で1年以上前から異常を訴えていたのに生検もせず、良性・悪性の判断をせぬまま飼犬(Golden Retriever、13才、メス)の左前脚の腫瘍摘出手術をして、犬の死期を早めた(手術後1か月半で死亡)と獣医師夫婦が訴えられた。
獣医師の妻は獣医師資格を有せず、実際の治療は無資格の妻がしていた。
獣医師側は、元々老犬であり寿命だと居直ったが、一審判決に納得しない飼主夫婦が控訴して、慰謝料30万円を含む42万円の支払いを命じた。愛犬を失う苦痛は、子どもを失った親に劣らぬ精神的苦痛であると判示した。
【大阪地判平28.5.27】 33万円
医師・看護師夫婦とその子の三人で飼育していた小型犬パピヨン(Papillon、4.6kg、当時12才8カ月)が、動物病院で輸血を受けた後間もなく死亡した事件で、飼主が獣医師らに330万円の損害賠償を請求した。
この犬は、元々脾臓に巨大な腫瘍が見つかったため全摘出手術を受けたばかりだったが、術後の予後もよくなく、貧血状態だったので、飼主(医師)が獣医師に輸血を依頼したところ、獣医師が小型犬にもかかわらず、中型犬乃至大型犬並の輸血をしたため、輸血後3時間足らずで死亡した。
犬の体重により一度の輸血量、輸血の速度の標準値があるが、獣医師は基準値の3-4倍の輸血速度で基準の輸血総量の1.5倍を実施したので、循環過負荷→呼吸不全→死亡に至った。
これは獣医師の注意義務違反であると認定され、いくら飼主に依頼された輸血ではあっても、獣医師の不法行為による損害賠償請求は認められるとした。
但し、輸血の時点では、既に腹腔内蔵器のほぼすべてを癌に侵されている状態であったので、飼主一人当たりの慰謝料を10万円、弁護士費用を1万円だけ認め、三人で33万円の支払いを命じた。
疑問に思ったことは、常に獣医さんに聞きましょう。
かかりつけの病院の場合は、診療内容が分かる診断書や資料を用意してくれます。
もしもに備えて、治療に関わった資料は捨てずに保存しておくと、医療ミスなどの疑いがあったときの証拠資料になる場合もあります。
何度通院しても改善しないときや不安が拭えない場合は、その旨を獣医師さんに説明して他の動物病院の先生の意見を聞くのもひとつの手です。
また、獣医師は、そこの病院では難しい手術を高度な医療を専門とした機関に紹介する義務もあります。
ペットショップで買った犬が先天性の病気だった
ペットショップから購入した犬が病気だったらと考えただけで、悲しい話です。
現実問題として、今後どうするのかは、そのペットショップ業者との話し合いで解決するほかにありません。
契約書を交わしているとしても、特異なケースなので一部負担や返却などいろいろなパターンがあるかと思います。
【東京都消費者被害救済委員会 平成18年6月】二件ともに生後2ヶ月前後の犬(約20万円)が、買ったときから病気であったという理由で契約解除及び治療代等の損害賠償を求めたケース
半額返金+25万円
- 50代男性A、フレンチブルドッグ、気管支炎と先天性心疾患と診断される
Aは平成17年1月犬を引取ったが、5日後に動物病院で診断を受けさせたところ、気管支炎と先天性心疾患と診断された。
業者は、気管支炎は認めたものの、先天性心疾患についてはレントゲンで精密検査が必要として認めず、一方、気管支炎のままレントゲン検査をすると犬の身体への負担が大きいと獣医師から説明を受け、Aは心疾患検査は断念した。
業者が犬の交換を認めず、Aの犬に対する愛情も生まれてきたので、この犬を飼い続けることとし、業者に30万円の損害賠償を請求した。
消費者被害救済委員会における紛争和解において、Aが犬を引取り、業者が犬の代金半額及び約7年分の治療代として合計25万円を支払うことで両者合意した。
売買契約書には、重大な先天的欠陥の判定は業者の指定する獣医師の判断によるとしていたり、消費者に一方的に不利な内容となっていて、消費者契約法違反と指摘された。
全額返金
- 40代男性B、トイプードル、風邪及び栄養失調と診断される
初めて犬を飼うBは、販売員より犬が軽い風邪をひいているときいていたが、自宅に引き取ればすぐに治る程度と言われ、業者に言われるままペット共済保険にも加入し、平成17年11月、犬を引取った。
家に連れて帰っても食欲がなく、ほとんど動かなかったため、翌日獣医師の診察を受けさせたところ、栄養失調と診断され、更に風邪についても、飼育環境が悪かったためではないかとの説明を受けた。
飼育に自信をなくしたBは、購入時に犬の容態や栄養の状態についての正しい説明を相手方から受けていれば契約を締結しなかったとして、購入日の翌日に犬を返し、契約の解除及び返金を求めた。
これに対し、業者は当初、契約上「契約完了後に当該ペットの返品、交換、返金、治療費等を含む損害の賠償など経済的負担を強いる一切の行為を要求することはできない」と定めているとして、解約を拒否した。
その後、業者が折れてきて、犬の価格の半額10万円につき返金に応じると返答あったが、Bは、ペット共済保険も払っており、一部返金では納得できないとして紛争となった。
消費者被害救済委員会における紛争和解において、業者の適切な情報を提供する義務違反を認め、Bが既に犬を返還していることでもあり、当該犬が健康体であったならば発生しなかった費用全てを含め、約27万円の損害賠償(ペット共済保険代を含む)を認め、Bの主張に沿った合意に至った。
業者が病気の犬を販売し、家に連れて帰って治療すれば容易に健康を回復するとの不適切な説明をして販売した行為は、消費者契約法(不実告知)に該当し、債務不履行乃至不法行為として、契約の解除・損害賠償の請求ができるとした。
上記の事例は、ペットショップから購入した犬が、病気だった場合の実話です。
動物はモノではないので、どちらにしろ辛い選択ですね。
良心的な店舗の場合は、話し合いで介護費用や治療費を一部負担してもらえる場合もあります。
解決できないときは、上記でも紹介した消費者被害救済委員会(消費者センター)で相談に応じてくれます。
ペット飼育不可物件で犬を飼っていてばれた
どう考えても、飼ったほうが悪いですが、なかには特殊な事情があるケースもあるようです。
【京都地判平13.10.30】 235.8万円
マンションの一室を、月額13.1万円(車庫・管理費込)で家主から借りていた住人が、中型犬(Shetland Sheep Dog)を飼育しているのがばれて、賃貸契約を解除され、違約損害金支払いを求められた裁判で、賃貸契約書通り、家賃の1.5倍の違約損害金支払いが命じられた。
この賃貸物件は5年以上前から現賃借人の父名義で借りていたが、途中で相続が発生し現在の居住者が賃貸契約当事者になっていた。
契約書には「賃借人は建物において動物を飼育しない」ことが明記されており、「契約違反により契約を解除されたときは,1か月につき賃料等の1.5倍の損害金を支払う」ことになっていた。
賃借人は、この契約書は知っていたが、管理会社である㈱S興産の担当者から犬の飼育について承諾を得ていたと主張、他の入居者で同じ犬種を飼っている者がいる、どこからも苦情が出ていない、管理会社も動物飼育を黙認しているなどと抵抗したが、賃貸人(マンションの所有者)が、動物が部屋を損傷すること、動物特有の臭いが部屋にしみ込み次の賃借人が入居を嫌うこと等で禁止しているのであるから、犬の飼育を許可する権限ある者の承諾がなければ何人も入居し得ないと判示された。
契約解除(平12.11.13)の翌日(平12.11.14)から賃料の1.5倍の違約損害金(月額19.65万円)を退去するまで支払えと命じられたので、その額は判決日時点で1年分=235.8万円となる。
【大分地判平17.5.30】 101万円
分譲住宅販売会社がマンション販売に際し、ペットを嫌う客に「ペット禁止住宅」であると説明して売り、ペットを飼育している客には「ペット飼育可」であると説明して売った事件で、結局この業者は、両方の入居者から損害賠償請求された事案。
正確には、ペット飼育については、入居者の代表で構成するマンション管理組合で決定することになっていたが、業者が説明義務を果たさなかったことが不法行為に当たるとされ、非飼育者である入居者と、飼育者である入居者の双方に合計101万円の損害賠償命令を言い渡された。
他人のペットによって生活の平穏を害された入居者も、ペットを飼えなくなって精神的苦痛を訴える入居者も、もとはと言えば、マンション販売業者の説明義務違反から、共に業者の信頼を失った事案である。
【東京地判平13.10.11】 30万円+禁止命令
マンションの管理規定で「小鳥及び魚類以外の動物の飼育禁止」と定められているにもかかわらず、室内で小型犬を飼い続けていた区分所有者を、マンション管理組合とその代表者が訴えた事案。
被告は、このマンションを購入した際、前主も犬や猫を飼っていたと仲介業者から説明きいたとか、「犬を飼いたいというのは子供たちで私ではないからどうしようもない」などと居直り、立ち退きを要求されると「いずれ犬の飼育ができる住宅に買い替えて引っ越すが、それがいつになるかわからない」と言い逃れをしてきた。
動物飼育禁止規定のある住宅に引っ越してきてから、1年以上にわたり、口頭・書面にて管理組合から注意されても無視し続けたため、ついに管理組合が100万円の損害賠償を求める裁判に訴えたところ、東京地裁は30万円の損害賠償と、住宅内における犬の飼育禁止を命じた。
【福岡地判平16.9.22】 住宅販売会社免責
マンションの販売業者が「小型犬なら飼育しても特段問題ないと思う」と言ってマンションの一戸を販売した後、管理組合規則が制定され、ペット飼育禁止になったため、転居を余儀なくされた住人が、住宅販売会社を重要事項説明義務違反、債務不履行、不法行為等で訴え、908万円の損害賠償請求した事案。
住宅販売後、住民の3/4以上の賛成で具体的管理組合規則が制定され、ペット飼育禁止になったとしても、住宅販売会社が虚偽の説明をしたとは認められず、住宅販売会社側の重要事項説明義務違反、債務不履行、不法行為は成立しないとした。
なかには、ペット飼育可のマンションを購入した場合でも、においや抜け毛などで、近所から苦情が来るケースもあるようなので、飼育可能物件でも配慮が必要です。
トリミングサロンで怪我をした
トリミングサロンでの事故で一番多いのがトリミング台から落ちて大けがをすること。なかには死んでしまった事例もあります。
トリミングサロンは、医療行為を行うことができないために体調が急変した場合にも対応はできません。
ゆえに、トラブルも多いです。
【大阪地和解平29.4.28】 45万円
Tea cup Poodle(小型犬、11か月、雄、2.2kg)がトリミング後に、台から飛び降りて骨折したのはドッグサロンの不注意によるとして、飼主が約97万円の損害賠償を求めた訴訟で和解が成立した。
ドッグサロン側が解決金45万円を支払う。従業員がトリミングを終え、撮影用の台に乗せた時、店の電話が鳴ったため、50秒ほど従業員が目を離したすきに、高さ40cmの台から飛び降り、左前脚を骨折した。
その結果、動物病院に2週間入院することになり、治療費が高額になった。
この犬種はToy Poodleの中でも超小型で、足の骨は割り箸のように細いと言われる。
訴訟では、40cmの台から飛び降りて骨折することが予想できたか争われたが、結果的に骨折したことは事実で、ドッグサロン側が注意義務違反を認める形で和解した。
トリミングの場合は、負傷した原因は明らかにサロンの責任であることが多いです。
怪我をした経緯や事実関係を話し合い、お互いに納得して怪我によってかかった治療費はサロンに請求しましょう。
また、トリミングサロンから帰ってきてから、足を庇うなどの仕草をみせる場合もあります。
わかった時点でサロンに連絡して、同時に病院で診察を。
上記の事例ように、骨折などの重傷の場合もあります。
ペットホテルへ預けていたトラブル
家族で旅行に行く時などに、犬を預ける為に利用するペットホテルでもいろいろなトラブルがあります。
愛犬の容態が急変したり、なかには散歩中に逃げ出して見つからなくなることも。
そんなトラブルに対する対処方法です。
【千葉地判平17.2.28】 150万円
犬の繁殖を行う女性ブリーダーが、ペットホテルの女性経営者に犬の飼育管理を委託したところ、経営者の寄託契約上の債務不履行により犬が死亡したとして1,200万円の損害賠償を請求した。
9匹預けた犬のうち、6匹の犬の死亡による財産的損害額を830万円、犬の死亡の他2匹の犬の傷害(片目失明、片耳欠損など)による精神的苦痛につき慰謝料210万円、他に既払の委託料20か月分160万円の合計である。
6匹の犬(1匹100万円以上で米国から輸入した)の死亡による財産的損害額を、民事訴訟法248条を適用して合計80万円と裁判所が認定し、ブリーダーの精神的苦痛につき慰謝料70万円を認めたため、寄託契約の債務不履行に基づく損害賠償金は150万円認められた。
このブリーダーは、当初は9匹の犬を委託料月額10万円でこのペットホテルに預け、1匹死亡後は8万円で預けていたが、ペットホテル側はその後5匹が死亡してもその事実を伝えず委託料だけを受け取っていた。
判決では、ペットホテル経営者は、他人の犬を扱うプロとして、犬の飼育につき適切な管理を行うべき義務があるとして、善管注意義務違反があったと認めた。犬の死亡原因は特定されず、犬同士の喧嘩による傷害又は病気によると推察される。
【福岡地判平21.1.22】 60万円
ペットホテルが預かっていた犬Chihuahua(チワワ)を従業員が散歩をさせている間に偶然ひもが外れて逃げ出した。
原告はの150万円の損害賠償請求した事案。
裁判所は、飼い主が他の犬と一緒に散歩させないように要望したにも関わらず他の犬と散歩させたことを重視してペットホテルの過失を認め、愛犬を失った飼い主の精神的苦痛に対し慰謝料など60万円支払いを命じました。
容体が急変したと電話などに連絡が来たがすぐに迎えに行けない時は、病院へ行くことを最優先にペットホテル側と交渉してすぐに病院で診察してもらいましょう。
急変した理由がホテル側が用意した食事など因果関係はっきりわかる場合は、治療費を請求できることもできます。
また、ペットホテルは当たり外れが多い施設です。事前にネットなどで評判などを調べておくことも重要。
疾患持ちや持病がある犬の場合は、動物病院にある預かり施設を利用するほうが賢明です。
行方不明になった愛犬が他人に飼われていて返してくれない
迷子になった愛犬が他の家で飼われていたのを発見したが返してくれない時はどうすべきなのか?
遺失物横領罪
迷子になった犬は、法律上は遺失物として扱われます。
悪意があって保護していたとは限らないので、その間にかかったフード代や多少のお礼を。
話がこじれた場合は、警察に相談しましょう。
愛犬の持ち主は、変わっていませんので戻ってくるはずです。
散歩中の尿やウンチをそのままにして苦情が来た
動物愛護法や各自治体の条例で、散歩中の排泄物の処理は、飼い主さんに義務付けられています。
軽犯罪法違反
迷惑行為防止条例違反
廃棄物処理法違反
放置する上記の罰則を科せられる場合があります。
最近は、自治体でも、ウンチを放置すると条例で罰金を科す地域が増えてきました。
また、排泄物を放置されて困っている場合、自治体によっては『動物愛護推進員』がいますので相談してみるのもひとつの手段です。
それ以前に、犬を飼うときの最低限のマナーなのでしっかりと守りましょう。
トラブルを避ける日頃の行動
トラブルは日ごろのしつけや、裁判沙汰になった判例を知ることで教訓として見直すことができます。
悪いクセがある場合は、少しずつ躾けていきましょう。
噛みグセをなおす
噛んでケガをさせると、とても重い責任を負うことになります。
実刑になった事例もあります。
公園では、周りに人はいないかを十分確認して、人との接触は避けましょう。
リードを引っ張るクセをなおす
愛犬がリードを急に引っ張ると、力加減によってリードは離れてしまいます。
それによって、自転車を転倒させ莫大な賠償金を支払った事例もあります。
飼い主さんの愛犬に対する管理義務を怠ったと判断されると罪が重いです。
伸縮リードでの散歩は避ける
伸縮リードは便利ですが、ロックせずに散歩させ、人や犬に怪我をさせると大変です。
管理責任を問われ多額の賠償金を支払うことになった事例もあります。
人や犬に慣れさせる
個体差もありますがペットショップから購入した犬の場合は、幼少期に犬に触れ合う時間が少ないです。
そういった犬は、なかなか人や犬に慣れにくくなっています。
できればパピーのころから人や犬と沢山絡んで慣れさすことは、成犬になってからトラブルを避ける意味でも重要だと思います。
さいごに一言
ご近所さんとのトラブルはなるべくなら防ぎたいところです。
防ぎようがないトラブルもありますが、なかには、日ごろからマナーを守って、しつけをしっかりとしておけば防げる場合もあります。
怪我をさせてしまった場合は、『ペット賠償責任特約』や『個人賠償責任保険』の特約がある保険やクレジットカードに加入していれば適用されます。
加入している保険に少額で付帯できますし、備えとして加入しておくのもひとつの手段だと思います。
事前連絡せずに、病院等での支払いを済ませてしまうと、保障の対象であっても、保険金が支払われない可能性がありますので、必ずすぐに連絡してください。
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